この記事の結論

この記事で分かること

  • お礼奉公の途中でも辞められます。民法第627条第1項により申入れから2週間で雇用は終了し、職場に拒否権はありません。
  • ただし返還義務は別の問題です。この2つを混ぜないでください。
  • 看護師のお礼奉公には都道府県の修学資金と病院独自の奨学金があり、根拠も相談先も違います。
  • 労働基準法第16条が禁じるのは「違約金・損害賠償額の予定」。貸したお金の返済まで否定するものではありません。
  • 労働基準法第17条は賃金との相殺を禁じています。行政解釈は「退職の自由が制約されていないこと」を条件に挙げています。給与天引きは要確認です。
  • 相談先は労働基準監督署・労働局・法テラス・都道府県の担当課。いずれも無料です。
  • 「奨学金立て替え」は借入先が変わるだけ。勤務継続の条件が付いていないか書面で確認してください。

「お礼奉公の途中だけど、もう限界。辞めたら訴えられる?」
「奨学金240万円を一括で返せと言われている」
「辞めさせてもらえないのは、法律的にありなの?」

最初に、いちばん大事なことをお伝えします。お礼奉公の途中でも、辞めること自体はできます。民法第627条第1項により、期間の定めのない雇用は申入れから2週間で終了し、職場に拒否権はありません。

そのうえで、「辞められるか」と「返さなくてよいか」は別の問題です。ここを混ぜて考えると、必要のない我慢をすることになります。

そして、看護師のお礼奉公には性質のまったく違う2種類があります。都道府県の看護師等修学資金と、病院が独自に貸す奨学金です。前者は条例で返還免除の条件が決まっており、後者は契約内容しだいで労働基準法に触れることがあります。

この記事では、看護師の求人情報サービスを運営する立場から、2種類の違い、労働基準法がどこまでを禁止しているのか、そして実際にどう動けばよいのかを、条文と行政の解釈にもとづいて整理します。

この記事で参照した公開情報(2026年8月31日確認)
労働基準法第16条(賠償予定の禁止)…厚生労働省の解説では「労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしてはいけません」とされ、例として「途中でやめたら、違約金を払え」が挙げられています。あわせて「あらかじめ金額を決めておくことは禁止されていますが、現実に労働者の責任により発生した損害について賠償を請求することまでを禁じたものではありません」とも明記されています
労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)…使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはなりません。行政解釈では、貸付の原因が真に労働者の便宜のためで労働者の申出に基づくものであること、返済前であっても退職の自由が制約されていないこと等、身分的拘束を伴わないことが明らかなものは本条に抵触しないと解されています
民法第627条第1項…期間の定めのない雇用では、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、申入れの日から2週間の経過によって雇用は終了します
都道府県の看護師等修学資金…卒業後2年以内に免許を取得し、条例で定める免除対象施設に就業して引き続き5年間看護職員の業務に従事した場合に返還が全額免除される、という運用が一般的です(要件・年数は都道府県ごとに異なります)
※個別の契約が違法かどうかの判断は、契約書の内容によって変わります。この記事は一般的な整理であり、法的助言ではありません。

看護師のお礼奉公には、性質の違う2種類があります

まず、自分がどちらなのかを確認してください。返還のルールも、相談先も違います。

都道府県の看護師等修学資金病院独自の奨学金
貸す主体都道府県就職先の病院・法人
根拠条例病院と本人の契約
免除の条件条例で定める免除対象施設で一定期間(5年など)従事契約で定めた期間の勤務
就業先の自由度免除対象施設なら病院を選べることが多いその病院に限定されるのが通常
辞めたときの扱い条例の定めに従って返還(猶予規定があることも)契約内容しだい。ここが問題になります
相談先都道府県の担当課労働基準監督署・弁護士

都道府県の修学資金は、勤務先を1つの病院に縛るものではないのが一般的です。免除対象施設として指定された範囲であれば、転職しても従事期間を通算できる運用の自治体があります。「辞めたら即全額返還」と思い込む前に、貸与を受けた都道府県の担当課に確認してください。

手元に契約書か貸与決定通知はありますか。まずそれを探してください。話はすべてそこに書いてあります。無い場合は、貸与元(都道府県または病院)に写しを求められます。

労働基準法が禁止しているのは「違約金」であって、返済ではありません

ここを正確に押さえると、不安の大部分は整理できます。

労働基準法第16条(賠償予定の禁止)について、厚生労働省は「労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしてはいけません」と説明し、その例として「途中でやめたら、違約金を払え」を挙げています。

一方で、同じ解説にはこうも書かれています。「あらかじめ金額を決めておくことは禁止されていますが、現実に労働者の責任により発生した損害について賠償を請求することまでを禁じたものではありません」

つまり16条が禁じているのは、働かなかったことへのペナルティを前もって決めておくことです。純粋にお金を借りて返すという関係(金銭消費貸借契約)まで否定するものではありません。

ここから、実務上の分かれ目が見えてきます。

契約の形考え方
お金を貸し、一定期間勤務したら返還を免除する本体は貸付。免除は特典という整理になりやすい
勤務を条件に支給し、辞めたら違約金として払わせる労働契約の不履行に対する違約金にあたり、16条の問題になります

同じ「◯年働けば返さなくてよい」でも、契約書の書き方と実際の運用によって評価が変わります。貸与額が高額で、事実上退職できない設計になっている場合は、16条違反が問題になり得ます。裁判例でも、貸与の目的や返還条件の内容から無効と判断されたものがあります。

ただし、これは契約書を見なければ判断できません。自分のケースが該当するかは、労働基準監督署か弁護士に契約書を持って相談してください。

給与から天引きされているなら、労働基準法第17条を確認してください

見落とされがちですが、実務でいちばん問題になりやすいのがここです。

労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)は、使用者が「前借金その他労働することを条件とする前貸の債権」と賃金を相殺することを禁じています。この規定は、お金の貸し借りと労働関係を切り離し、退職の自由を確保することを目的としています。

行政解釈では、次のような場合は17条に抵触しないと解されています。

  • 貸付の原因が真に労働者の便宜のためであり、労働者の申出に基づくものであること
  • 返済前であっても退職の自由が制約されていないこと
  • その他、貸付金が身分的拘束を伴わないことが明らかであること

裏を返すと、「返し終わるまで辞められない」という運用になっている時点で、17条の趣旨から外れていきます。給与から一方的に返済分が差し引かれている場合は、賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)とあわせて、労働基準監督署に相談する価値があります。

お礼奉公中の看護師でも、退職そのものはできます

ここが冒頭でお伝えした点です。

民法第627条第1項により、期間の定めのない雇用契約は、退職を申し入れた日から2週間が経過すれば終了します。「奨学金を返すまで辞めさせない」という主張に、契約を継続させる力はありません。

整理すると、こうなります。

論点結論
辞められるか辞められます(民法第627条第1項)
返還義務は残るか契約が有効なら残ります。金額と期限は契約書によります
一括で払わないといけないか契約に一括返還の定めがあれば原則そうなりますが、分割の相談は可能です
給与から天引きしてよいか労働基準法第17条・第24条の問題になります

「辞める」と「返す」を分けて考えれば、返済の目処が立たないことを理由に、心身を壊すまで働き続ける必要はありません。心身の不調がある場合の判断は看護師はすぐ辞められる?で整理しています。

お礼奉公を辞めると決めたときの手順

  1. 契約書(または貸与決定通知)を確認する。貸与額・免除条件・返還の期限と方法・分割の可否を書き出します
  2. 都道府県の修学資金なら、担当課に確認する。免除対象施設の範囲、従事期間の通算、返還猶予の規定があるかを聞きます
  3. 病院独自の奨学金なら、契約書を持って労働基準監督署か弁護士に相談する。16条・17条の問題があるかを見てもらいます
  4. 退職を申し出る。就業規則の期限に沿うのが円満ですが、法律上は2週間です
  5. 返還方法を書面で取り決める。口頭のやり取りだけで進めないでください

相談先は次のとおりです。いずれも無料で利用できます。

  • 労働基準監督署…賃金からの天引き、退職妨害など労働基準法に関すること
  • 都道府県の労働局(総合労働相談コーナー)…退職をめぐるトラブル全般
  • 法テラス…契約の有効性など法律相談(収入要件により無料相談の制度があります)
  • 貸与元の都道府県担当課…看護師等修学資金の免除・猶予の要件

次の職場を探すときに注意すること

お礼奉公から抜けるときは、返還原資をどう作るかが現実的な課題になります。ここで焦って条件の悪い職場を選ぶと、同じことを繰り返します。

日本看護協会の調査では、既卒採用者(転職して入職した人)の離職率は16.1%で、新卒採用者の8.4%の約2倍でした。急いで決めた転職ほど続かない、という数字です。

返済の話と、次の職場選びは、別々に進めてください。返還は分割の相談ができることが多く、転職を止める理由にはなりません。条件の整理は看護師の転職準備、動く時期の逆算は看護師の転職時期をご覧ください。

なお、転職サイトのなかには奨学金の立て替えをうたうものがありますが、立て替えは借入先が変わるだけで、返済義務がなくなるわけではありません。条件を必ず書面で確認してください。

よくある質問

看護師のお礼奉公は違法ですか?

お礼奉公という仕組みが一律に違法なのではなく、契約の内容によります。労働基準法第16条が禁じるのは「労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約」で、厚生労働省は例として「途中でやめたら、違約金を払え」を挙げています。一方、お金を貸して一定期間の勤務で返還を免除する形は、貸付として整理されることがあります。高額で事実上退職できない設計になっている場合は16条違反が問題になり得ますが、判断には契約書の確認が必要です。

お礼奉公の途中で辞めたら、訴えられますか?

退職したこと自体で責任を問われることはありません。民法第627条第1項により、期間の定めのない雇用は申入れから2週間で終了します。争いになるとすれば返還金の請求であって、退職の可否ではありません。契約が有効なら返還義務は残りますが、分割の相談ができることが多いので、まず契約書を確認して貸与元に相談してください。

奨学金を一括で返せと言われました。応じないといけませんか?

契約に一括返還の定めがあれば原則としてその内容によりますが、分割の協議はできます。また、その一括返還条項が労働基準法第16条の「違約金・損害賠償額の予定」にあたらないかは、契約書を見ないと判断できません。金額が大きく、退職の自由を事実上奪う設計になっている場合は、労働基準監督署か弁護士に契約書を持って相談してください。

給与から奨学金の返済分が天引きされています。問題ないですか?

確認する価値があります。労働基準法第17条は、労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺することを禁じています。この規定は、お金の貸し借りと労働関係を切り離し、退職の自由を確保することを目的としています。あわせて賃金は全額払いが原則です(労働基準法第24条)。一方的な天引きが行われている場合は、給与明細を持って労働基準監督署に相談してください。

都道府県の看護師等修学資金でも、辞めたら全額返還ですか?

都道府県の制度は条例にもとづいており、免除対象施設の範囲内であれば病院を移っても従事期間を通算できる運用の自治体があります。また返還の猶予規定が置かれていることもあります。一般的な運用としては、卒業後2年以内に免許を取得し、免除対象施設で引き続き5年間従事すれば全額免除とされますが、要件も年数も都道府県ごとに異なります。まず貸与を受けた都道府県の担当課に確認してください。

お礼奉公は何年が多いですか?

病院独自の奨学金では3年から5年の設定が多く見られますが、法律で決まった年数はありません。都道府県の看護師等修学資金では、免除対象施設で引き続き5年間従事という要件が一般的です。いずれも契約書と条例が根拠なので、そこを読むのが唯一確実な方法です。「みんなそうだから」で判断しないでください。

転職サイトの「奨学金立て替え」は使ったほうがいいですか?

仕組みを理解したうえでなら選択肢になりますが、立て替えは借入先が変わるだけで、返済義務そのものがなくなるわけではありません。誰に、いくらを、どの期間で返すのか、勤務継続の条件が付いていないかを、必ず書面で確認してください。条件が付いている場合、形を変えた別のお礼奉公になる可能性があります。転職サイトの仕組みは看護師の転職エージェントで解説しています。

まとめ|看護師のお礼奉公は「辞める」と「返す」を分けて考えてください

  • お礼奉公の途中でも辞められます。民法第627条第1項により、申入れから2週間で雇用は終了します
  • ただし返還義務は別の問題です。契約が有効なら残ります。この2つを混ぜないでください
  • まず種類を確認します。都道府県の修学資金は条例が根拠で、免除対象施設の範囲なら通算できる運用があります
  • 労働基準法第16条が禁じるのは「違約金・損害賠償額の予定」です。貸したお金の返済まで否定するものではありません
  • 労働基準法第17条は、賃金との相殺を禁じています。行政解釈は「退職の自由が制約されていないこと」を条件に挙げています。給与天引きは要確認です
  • 相談先は労働基準監督署・労働局・法テラス・都道府県の担当課。いずれも無料です
  • 「奨学金立て替え」は借入先が変わるだけです。勤務継続の条件が付いていないか書面で確認してください

返済の目処が立たないことを理由に、心身を壊すまで働き続ける必要はありません。契約書を手元に用意して、まず1か所に相談してください。そのうえで次の職場を考えるときは、看護師の転職準備から順に進めると、同じ状況を繰り返さずにすみます。

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執筆・監修:江波戸 純希(えばと よしき)

WEBBOX合同会社 代表社員/スキマかんご 編集責任者

  • 職業紹介責任者講習 修了
  • 有料職業紹介事業の許可を受けた株式会社GRADに在籍
  • 看護師専門の人材紹介サービス「ナースJJ」で、看護師の転職支援を担当
  • 現在は募集情報等提供事業として、看護・介護の求人情報サービス「スキマかんご」を運営

制度・報酬・求人条件は、厚生労働省をはじめとする行政および各サービスの公開情報を確認したうえで記載しています。制度は改定される場合があるため、最新の内容は各公式サイトでもご確認ください。

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